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mahler's parlor

東京、埼玉、千葉、群馬。

県外ナンバーの車でごった返しの

佐野プレミアムアウトレットを横目に

50号をひた走る。


見慣れた、、とまではまだ言えないけど

足利へ向かう道中の景色が

いつもとは少し違って見えた。


車にギターを積んでいないからだ。

ふと、そう思った。


いつもこの道を通るときは

目的地でのライブのために向かうときで

でも今回は束の間の休日。


ライブのための移動となれば

その夜を脳裏に浮かべながらの旅になる。

よって、風景への心情描写も幾分は違うもの。


でも、いつもの景色が劇的に変わり果て


「ココガ…何処ナノカ…ワカラナイ…」


と至るわけもないのはご察しの通りで

なにも大袈裟な話しをしたくて

iMacをくすぐり始めたわけではない。


心持ちひとつ、

または少し先で待つ未来によっても

いつもの景色が少し違って見えるという

誰にでもある悪気のない小話を

只々したかっただけなのだ。


その目的地が近づいてくると

ライブの日の思い出がよみがえってきた。


よみがえり方も立派なもので

行儀良く日付け順にとはいかない。

横一列に並んだ記憶が肩をぶつけ合いながら

一度にこっちへやってくる様だ。

その景色はどれもが素晴らしく、

幼い頃の映像をVHSテープで観るように

優しい色合いを見せていた。


目的地に到着すると

会いたかった人が店の中から僕に気づいた。


言い忘れていたかもしれない。

目的地とは足利のあるカフェのことで

会いたかった人とは

そこのオーナー夫婦の奥さん。

その奥さんの向こうに

会いたかった人がもうひとり。

オーナー夫婦の旦那さんの姿も見える。


入り口のドアを開け中に入ると

身体中に心地よさが染み渡る。

"胸を撫でおろす"とはこのことを言うのだ。

僕は安堵感に包まれた。

初めて来たときもそうだったと思う。

それはまるで旅の途中で見つけたオアシス。

乾いた土地での、一粒のしずく。


僕らは久しぶりの挨拶を交わし

元気そうなお二人の顔を確認してから

カウンターの隅に座った。



出会ってからどれほどの年月が経つのだろう。

最初はジャマイカ音楽をこよなく愛する

大好きなDJの先輩からの紹介だった。


初めて店を訪れて

ライブをさせてもらったときから

僕にとって、なくてはならない場所になった。

そしてそこに集う人たちもそう。

いまでもずっと居てほしい大切な人たち。


不思議な感覚を覚えている。

家から1時間ほどの場所なのに

随分と遠くまで来てしまったかのような

そんな旅の感覚があった。

そしてまたここからの旅について

まるで「楽しんで来な」と言われているような

背中を押してくれるような

そんな目には見えない魔法のような空気感を

僕は確かに感じとっていた。


午後1時。

ランチを頼み店内を見渡すと

雑貨や服が大切にディスプレイされていて

楽しみながら買うことができる。

僕は席を立ち、見させてもらうことにした。


その中で特に目を惹いたのが

奥さんが作っているという服。

ワンピースやワイドパンツ、帽子にバッグ。

ひとつひとつが丁寧に作られていて

愛情がその手触りからも伝わってくる。


あぁ、こんな服を着て日々を過ごしてみたい。

今度ライブの衣装をオーダーしてみようかな。

作ってもらえるだろうか。

今度また交渉しに来てみようかな。


心の中でそれはそれは瑞々しく呟いた。


そうこうしていると

「はいよ、お待たせ」と

頼んだランチがカウンターに運ばれた。


トマトベースのキーマカレーセット。


その美しさときたら!

フィレンツェの街並みが世界遺産であるなら

同等の、いやそれ以上の称賛を

惜しげもなく与えるべきだ。


その絶景に後ろ髪を引かれながらも

街並みにスプーンを入れ、ひと口。

うまい。


オリエンタルとエキゾの彩度が心地良い。

とても優しく口の中に広がっていく。

どうしてここまで良き絶妙さを出せるのか。

素材選びから素材の活かし方も

きっとこだわり抜いているのだと思う。


そしてノスタルジー。

人それぞれの原風景があるのにも関わらず

おそらく多くの人がそれに当たる感情を

きっと抱くことができる。



サラダとキッシュもある。


野菜が本当においしい。

手間を惜しまず育ててきたのが分かる。

ドレッシングの主張もほのかだが

最高の相方であり、互いを尊重し合っている。


人参のラペも添えてあり

とにかくこのラペの美味しさに驚いた。

人参の良いところの味が前に出ている。

そしてあまく、さわやか。

どんぶり一杯でもいい。

それほどこのラペは美味しかった。


キッシュも。

しっとりと柔らかく繊細で

それでいて存在感もしっかりとある。

生地と具がこの上なく調和していて

ソースで味を締めながらも遊びもある。



あぁ、ほんとに来てよかった。


僕は幸せな気持ちになった。

身も心も喜ぶランチを頂いたあと

もう一度、服のディスプレイの方へ。


奥さんがデザインした黒地のTシャツが

どうしても欲しくなった。

前面には女性の顔の絵が描かれている。

デザインのモチーフになっている女性は

ここのオーナー夫婦のお知り合いで

彼女のセルフポートレート作品も見せてくれて

余計にそのTシャツが欲しくなった。



表情のある可愛らしいスコーンと

無料で置いてあった詩集とともに

そのTシャツも買うことに決めた。


決して長くはない滞在時間ではあったものの

今日このカフェに来たという確かな事実が

なんだかとてもうれしかった。



家路に着きコーヒーを淹れて部屋に戻り

椅子に腰掛け煙草を一本巻いた。

上手に巻けたかと聞かれたら

それほど自慢できるほどでもないけれど

人に見られてもおそらく笑われることもない、

そんな調子の仕上がりだった。

でも最高傑作をと意気込んだところで

特に大きな変化は見当たらないだろうし

そもそも討論になるほどの材料でもない。

煙草は煙草らしく吸われては消える運命で

僕はその運命を煙りの中で見届けるのみだ。

外を走る車の音が静けさを増す。

煙草に火をつけコーヒーをひと口。

酸味が少し効いたお気に入りの味だ。


今日という日の、

終わりの始まりを指す夕暮れどき。

今度は連れて行けたらいいなと

留守番をしていたギターに手を伸ばした。







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僕の気ままな長話に付き合ってくれて

どうもありがとう。


今回訪れたカフェは栃木県足利市の


mahler's parlor 』(マーラーズ・パーラー)


ライブでお世話になっている大好きなカフェ。

マーラーズのご飯は本当に美味しいので

よかったら皆さんもぜひ。


久しぶりにお二人に会いに行けてよかった。

またふらっと遊びにいきますね。


コロナが少し落ち着いたら

足利・佐野界隈のみんなにも会いたいです。



なのでしっかりと準備をして

その時を待ちたいと思います。


さてと

明日は週に一度のラジオの日。

一週間がとても早く感じるなぁ。

コツコツと楽しみながら

マイペースに頑張っています 笑

ぜひ聴いてくださいね。



では。


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